和歌山地方裁判所 昭和26年(行)1号 判決 1955年11月21日
原告 木綿房千代 外一名
被告 和歌山県農業委員会・和歌山県知事
主文
原告等の被告和歌山県知事に対する訴を却下する。
訴外和歌山市宮地区農地委員会が和歌山市黒田九十三番地の一田四反九畝四歩及び同市太田三百十五番地の一、田一反九畝十歩につき定めた各農地買収計画に関する原告等の各訴願に対し被告和歌山県農業委員会(当時和歌山県農地委員会)が昭和二十五年十二月一日になした右各訴願棄却の裁決はいずれもこれを取消す。
訴訟費用中、原告等と被告和歌山県知事との間に生じた部分は原告等の負担とし、原告等と被告和歌山県農業委員会との間に生じた部分は同被告の負担とする。
事実
原告等訴訟代理人は被告和歌山県農業委員会に対する訴において、主文第二項及び第三項後段と同旨の判決を求め、被告和歌山県知事に対する訴において「被告和歌山県知事が昭和二十五年十二月二十五日発行の各買収令書を以てなした主文第二項掲記の各物件に対する買収処分はいずれもこれを取消す、訴訟費用は同被告の負担とする」との判決を求め、その各請求の原因として、
「原告木綿房千代は和歌山市黒田九十三番地の一、田四反九畝四歩の、原告木綿隼三は同市太田三百十五番地の一、田一反九畝十歩(右両土地を以下単に本件各土地と略称する。)の各所有者であつたが、訴外和歌山市宮地区農地委員会(以下単に訴外委員会と略称する)は本件各土地につき自作農創設特別措置法(以下単に法と略称する)第三条により農地買収計画を定め昭和二十五年六月八日附で原告等に対しその旨の通知をなしたので、原告等はそれぞれ右買収計画に対し縦覧期間内である同年六月二十一日訴外委員会に異議を申立てたところ、同委員会は同年七月五日右異議を容れぬ旨の決定をなし、原告等はさらに同月十五日被告和歌山県農業委員会(当時和歌山県農地委員会と称した。以下単に被告委員会と称する)に対し右決定の取消を求める訴願をなしたところ、被告委員会は同年十二月一日訴願棄却の裁決をなし右各裁決書の謄本は同月十六日原告等に送達され、被告和歌山県知事は同月二十八日原告等に到達した買収令書(同月二十五日附)を以て本件各土地の買収処分をした。ところで本件各土地についてはじめ訴外委員会は被告委員会の昭和二十三年八月十九日附の承認を得て法第五条第五号該当農地とする旨の指定をしたのであるが、のち被告委員会は昭和二十五年三月三十日右指定の承認を取消し訴外委員会は同年五月二十六日右指定を取消し前記買収計画を樹立するに至つたのにかかわらず被告委員会及び訴外委員会は右各取消の旨を原告等に通知しなかつたのであつて、元来相手方ある行政処分はこれを相手方に通知してはじめてその効力を生ずるものであるから右取消は原告等に対し行政処分としての効力を生ずるものでない。原告等はその後訴外委員会の前記原告等の異議に対する決定を受け調査をした結果右取消処分のなされたことを知つたのであるがこれを以てこの通知のなかつた瑕疵が補完されるわけではない。
右が理由ないとしても、元来法第五条第五号の指定は特定の農地がその四囲の事情や社会的認識等によつて近く使用目的を変更することを相当とする場合その客観的事実を確認する旨の法律上覊束された行政処分であつて一たび指定のあつた後に行政庁の一方的な自由裁量によつてこれを取消し得るものではないというべきところ、本件各土地はいずれも国鉄紀勢西線東和歌山駅構内地の東部に隣接する位置にあり、東西共に人家の立並ぶ宅地に接し、これを工場敷地として使用するときは物資の輸送に至便で一面都市の発展に資することになり、和歌山市においても本件各土地の属する東和歌山東北部一帯を工場地帯に指定する計画を立てている状態であるのに反しこれを耕作に供するには右四囲の状況のため水利の便が悪化する一方でありまた近隣の居住者も本件各土地が耕作田でないことを希望している点からも支障があるわけで、将来この地域の発展に伴い宅地化されることは必至の運命にある。原告木綿房千代は昭和七年以来和歌山市松江に工場を設けて織物製造業を営んでいたが、早く右の事情に着眼し昭和十年六月及び昭和十二年五月の両度にわたり更に好適の地として本件各土地を買入れ登記簿上本件黒田所在の土地を同原告名義とし、太田所在の土地を原告木綿隼三名義としこれを前記工場並びに事務所・倉庫等の移転予定地と定めていたが戦争勃発のため移転も意の如くならぬうち松江所在の工場が戦災で壊滅に帰したので本件各土地の耕作者である訴外川島英一、同太田英男に右原告木綿房千代がこれを買受けるに至つた事情を伝えて接渉した結果同訴外人等は要求次第いつでも原告等にこれを明渡す旨約したのである。
しかし戦後のインフレに伴う諸物価の高騰のため右工場建設は困難となつたのでしばらく推移を見ると共に一面右耕作者等に明渡を求めていたところ昭和二十一年十月法の制定があり昭和二十二年五月二十九日本件各土地についても農地買収計画が定められるに至り、原告等はこれに異議を申立てる一方商工省に対し人絹織物工業の再建許可を申請した結果昭和二十三年五月十三日その許可を得たので訴外委員会に本件各土地につき法第五条第五号の指定を申請し、同委員会は右諸事情に基いて前記のとおりこれが指定をなしたのであつて、その後本件各土地は使用目的を変更するのを相当とする事情において益々進展しこそすれ逆行する傾向は全く存しないのであるから訴外委員会が一方的な自由裁量を以てなした前記指定取消処分は何等効力を生ずるものでない。
また、原告等は右指定をうけたのち工場建設の準備として先ず農地調整法第九条第三項により耕作者等との賃貸借契約の解除をし訴外委員会の承認を受ける必要があつたので耕作者等と離作料の話合いをして合意解約を実現したく訴外委員会の事務員であつた岡本某を通じて接渉をすすめたが耕作者等は前記約定を無視して多額の離作料を要求しさらに右事務員が交渉の途次死亡した等の事情もあり妥結をみないまま経過していたところ、昭和二十四年十二月五日附で和歌山県農地部長より本件各土地の使用目的変更の遅延している理由につき報告を求められ原告等は昭和二十五年三月三日右のとおり離作料の協定不成立が主たる理由だとして詳細な報告をすると共に県農地課及び訴外委員会にその調整を依頼したのである。ところがその後訴外委員会は前記の如く買収計画を定め原告等より同委員会に異議の申立をしたのに対しこれを容れない旨の決定がありこれに基いて調査した結果同委員会が耕作者との話合いのつく見とおしなしとして被告委員会の承認を得た上、前記指定を取消した旨を知つた。しかしながら原告等は右のとおり県農地部長の照会に応じ理由を示して詳細な報告をしたのだから若し耕作者との話合いを急速にせぬばならぬ事情があるのならばそれを原告等に通知しその後なお実効が上がらなければはじめて右指定取消をなすべきであるのに、右報告提出の後短時日の間に全く一方的にこれが取消をなしたのだから右の取消はこの点からも不当である。
以上いずれにしても右指定の取消はその効力を生じていないわけであるから、その有効を前提としてなされた訴外委員会の前記買収計画は違法であり、これに関する原告等の訴願は正当であるにかかわらずその訴願を棄却する旨なした被告委員会の前記裁決は取消さるべきであり、また右違法の買収計画に基いて被告知事のなした前記買収処分も同じく取消を免がれない。よつて被告委員会に対しては右裁決の、被告知事に対しては右買収処分の各取消を求めるため各本訴に及んだ」と陳述し、被告の主張に対し、
「被告主張の事実中原告等が和歌山市小雑賀に工場を新設したことは認めるが、それは本件各土地につき右買収処分がなされたためやむを得ずなしたことであり、本件各土地は捺染をするのに適当な水質の水を得ることができるのでこゝに捺染工場を建設する予定である」と述べた。
(立証省略)
被告指定代理人は「各原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求め、答弁として、
「原告等の主張事実中、その主張のとおり、本件各土地がそれぞれ原告等の各所有であつたところ、訴外委員会がこれらにつき買収計画を定めてその旨原告等に通知し、原告等より異議を申立てこれについての決定に対しさらに被告委員会に訴願を申立てたが同訴願棄却の裁決、右裁決書謄本の送達があり次いで被告和歌山県知事の買収令書の送達による本件各土地の買収処分がなされたこと、本件各土地についてははじめ訴外委員会が被告委員会の承認を得て法第五条第五号の指定をしたがのちその承認取消をまつて右指定を取消した(ただし取消の日は昭和二十五年四月五日)こと、被告委員会の右承認取消及び訴外委員会の指定取消を原告等に通知しなかつたことはいずれも認める。
被告委員会の承認取消は上級行政庁の下級行政庁に対する行政機関の内部的な監督作用にすぎないからもとより原告等に通知すべきものでなく、訴外委員会の右取消処分は通知するのが望ましいことはいうまでもないがこれを必要とする旨の規定はなく、また指定の取消がなされただけで直ちに買収計画が定められるわけでないし買収計画が定められたのちこれを争い得るのであるから、通知をしなかつたところで右取消は違法とはならない。
法第五条第五号該当の農地として指定するか否かはもとより行政庁の自由裁量に委ねられるものでなくその取消もまたこれと同様の性質の行政処分であるけれども、いつたん指定があれば以後絶対にその取消ができないわけではなく、右指定は元来土地所有者に利益を与える行政処分であるから利益を与えられた者がこれを適当に行使しないためにその利益を与えた行政目的を達成し得ない状態が生じた場合所謂成功不能として取消し得るのであり、本件各土地につき右指定をしたのは同土地が地理的に見て将来宅地化を予想される点と原告等が近く工場建設地として使用する状態にあつたからであるが、その後一年九ケ月の間原告等は耕作者の離作について小作調停を申立てることもできたはずであるのにこれが申立をせず農地調整法第九条第三項の手続もとろうとせず工事にも着手せずただ徒に日を過すだけであり、また一方原告等はその後和歌山市小雑賀に工場を新設した事情もあつて、本件各土地が工場建設地として使用されるのは将来いつのことかわからず、とうてい法第五条第五号の要求する「近く」土地使用の目的を変更するのを相当とする農地という要件を充たさない事態に立ち到つたので前記成功不能の場合としてこれを取消(行政処分の撤回・廃止)したのである。
以上のとおり右指定の取消は有効であるから、その後本件各土地につき訴外委員会の定めた買収計画には何等の違法なく、これを理由とする原告等の本件各請求は失当である」と述べた。
(立証省略)
理由
まず原告等の被告和歌山県知事に対する訴(当庁昭和二十六年(行)第二号事件)について検討する。原告等は昭和二十六年一月二十二日右訴を提起し、これにおいて、訴外委員会が樹立し昭和二十五年六月八日附で原告等に通知した本件各土地に対する農地買収計画を違法だとして、右違法の買収計画に基く被告和歌山県知事の買収処分の取消を求めるのである。ところが原告等はこれよりさき昭和二十六年一月十三日和歌山県農地委員会を被告とする訴(当庁昭和二十六年(行)第一号事件)を提起し、前記第二号事件と同じ理由により、前記買収計画に関する訴願に対し被告委員会のなした訴願棄却の裁決の取消を求めているわけである。そうすると右被告委員会に対する事件につき本案の確定判決があれば、その判決理由中に示される買収計画の適法違法の判断は右第二号事件の被告である和歌山県知事をも拘束するもので、同知事はこれに反する行政処分をなし得なかつたこととなりその趣旨に副う措置を採らねばならぬに至るのであつて、このことは行政訴訟における確定判決の拘束力として行政事件訴訟特例法の規定するところから明白である。だから原告等としては前訴たる右第一号事件を提起している以上右第二号事件の訴の目的を達し得るものというべく、重ねて後訴を提起する必要は存せずその訴は訴についての正当な利益を欠くものとして却下すべきである。
次に被告委員会に対する訴について判断しよう。
原告木綿房千代が和歌山市黒田九十三番地の一、田四反九畝四歩の原告木綿隼三が同市太田三百十五番地の一田一反九畝十歩の各所有者であつたこと、訴外委員会が本件各土地につき法第三条により農地買収計画を定め昭和二十五年六月八日附で原告等に対しその旨の通知をしたので、原告等がそれぞれ右買収計画に対し同年六月二十一日訴外委員会に異議を申立てたところ同委員会は同年七月五日右異議を容れない旨の決定をなし、原告等よりさらに同月十五日被告委員会に右決定の取消を求める訴願を申立て、被告委員会が同年十二月一日訴願棄却の裁決をし右裁決書の謄本が同月十六日原告等に送達せられたこと、本件各土地についてはじめ訴外委員会が被告委員会の昭和二十三年八月十九日附の承認を得て法第五条第五号該当農地とする旨の指定をしたのであるが、のち昭和二十五年三月三十日被告委員会は右指定の承認を取消し訴外委員会は同年四、五月頃右指定を取消すに至つたこと、被告委員会及び訴外委員会がいずれも右各取消の旨を原告等に通知しなかつたことはいずれも当事者間に争いがない。
原告等は右各取消の通知がなかつたからその取消は原告等に対し行政処分としての効力を生じないと主張するので以下この点について按ずるに、被告委員会の指定承認の取消は指定の承認と同様行政機関の内部における上級行政庁の下級行政庁に対する監督作用と解すべきであるから、これを原告等に通知する必要はもとよりないわけで、原告等の主張中右の点は採用し得ない。次に訴外委員会の指定取消の点について検討するわけであるが、一体行政処分が有効要件として通知を必要とするか否かは諸種の行政処分について互いに相違があるのであつてこれを法第五条第五号の指定したがつてその取消についてみると、法及び関係法令上右通知を要件とする規定は存せずまたそれらは別段申請をまつてなさるべき性質の行政処分でもなく、さらに右指定も取消もそれ自体として直接関係人に対し権利義務の変動を生ぜしめる行政処分ではなくてもつぱら法第三条による買収計画との関係においてのみ意味を持つものであり、買収計画については土地所有者はこれが不服申立の権利を有し(法第六条等)、またその土地の小作人はこれが樹立を請求する権利を有する(法第六条の二、三等)のであるし、他方市町村農地委員会は所謂合議制の行政庁であつて他に執行機関の存在を予定する単なる議決機関でなく且つその会長は議事録を作成しこれを縦覧に供しなければならない(農地調整法第十五条の二十三)点を彼此勘案すると、右指定・取消はこれが有効要件として通知を必要とするものとは解しがたく、これと反対の見解を前提とする原告の右主張は採用することができない。
すゝんで本件において被告は訴外委員会の前記指定自体が瑕疵を有しこれを理由としてその取消をしたと主張するわけでなく原告等もまたもとよりこれを争うものではないのであるから、事はもつぱら行政行為の撤回(以下便宜上取消と称する)の問題に限定されるところ、右の点につき原告等は指定は法規裁量行為であり一たんなされた以上爾後これを行政庁の自由裁量により取消し得ないとし当裁判所もまた右の見解を是認する。ただこのような指定処分も確定力を有する行政処分ではないのであるから、その効力を将来に存続せしむべきでない特別な公益上の必要が生じた場合には原処分庁においてこれを取消し得るものと解すべきで、問題は本件において右の如き特別な公益上の必要が果して生じたかどうかにあり、以下この点について考えよう。
当事者間成立に争いのない甲第三号証の一ないし三、証人西島庄太郎、亀井豊秋、秋月源、田中寿行、川島英一、太田英男及び原告木綿房千代本人の各供述に検証の結果並びに口頭弁論の全趣旨を綜合すると、本件各土地のうち和歌山市黒田所在の土地(以下便宜上甲地と略称する)は現況農地で訴外川島英一の先代が当時の所有者より賃借し以来ひきつづき耕作中のもので、同市太田所在の土地(以下便宜上乙地と略称する)は訴外太田英男の先々代が当時の所有者より賃借して以来右同様耕作中のものであるが、甲地は国鉄紀勢西線東和歌山駅より北方第一踏切に至る間の東側において同鉄道線に隣接し、その西側一帯は工場地域他三方の直接隣接地は田であるが南接の田は本件甲地との接触部分においてすでに一部埋立地となつており、北方また工場地帯が指呼の間に望まれ東部も猫額の田を距てて住宅及び道路に至り、乙地は右東和歌山駅の南方第一踏切附近の東側十字路の角に位置し前記鉄道線との間に工場が一つあるだけでその鉄道線の西側は一帯の市街地であり、北方は道路を距てて訴外委員会事務所と向きあい東方は同じく道路を距てて住宅の群に面し、わずかに南側のみ一枚の田に接しているがその田のさきには住宅が立ち並んでおり、このような四囲の状況には昭和二十三、四年頃よりのち数年間殆んど変化がないこと、原告木綿房千代は永年多数の人絹織物工場等を所有して織物業を営んでいたが本件各土地が物資の輸送に利便なことや染晒加工に適した水質の水が得られることなどに着目し昭和十年前後工場建設の予定地として本件各土地を買受け甲地を同原告名義乙地を同原告の娘婿である原告木綿隼三名義とし当時の耕作者等に買受の事情を伝えて工場建設の際は必ず明渡すとの諒解を求めていたこと、昭和十八年頃従前より所有していた工場のうちの一つが他工場の拡張地域に入つたため益々本件土地に工場建設をなすべく計画を急いだが戦争の拡大のため実現に至らず戦後工場復元再建の許可を受けたものの鉄材統制のため機械器具等の入手も困難となり着手できなかつたこと、前記法第五条第五号の指定後訴外委員会の職員岡本某に依頼して耕作者との交渉をすすめたが耕作者は本件各土地を手離すことを欲せず、どうしても手離さねばならないのならば離作料として一反十数万円を要求するとのことで原告等の申出額との差が大きく結局離作料の点で話合いがつかなかつたこと等の事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。
以上の事実によると本件各土地については右指定取消の時もその後も依然として近くその使用目的を変更するのを相当とする事情にあるものといわねばならず、被告は、本件各土地が将来宅地化の予想されるものだとの点は認めながら、法第五条第五号の指定後約一年九ケ月の間を原告等がその使用目的の変更のために何等の手段を講ぜず同号に所謂「近く」の要件を充たさぬに至つたので成功不能として右指定を取消したと主張し、証人田中寿行の証言に徴すると当時農林省の通達では右の「近く」を一年以内として取扱うべしとなされていたこと、指定の際原告等に対し指定を受けても一年内に現実に本件各土地で事業を開始しないかぎり取消されることがある旨念達してあつたことが認められ、かつ事業開始をもたらすための原告等の努力において多少欠くるところがあつたことも本件口頭弁論の全趣旨によりこれをうかがい得るのであるが、これを以て前示結論を左右することはできないし、また原告等がその後和歌山市小雑賀に工場を新設するに至つた事実(この点は当事者間に争いがない)も別段右結論に影響を及ぼすものでない。そうすると本件各土地については前記の指定後にこれを取消すべき特別な公益上の必要は生じていないものというべきであつて右取消は効力を生ずるものでないから、これが効力を生じたことを前提として本件各土地につき訴外委員会の定めた前記各買収計画は違法である。したがつてその余の点につき判断を加えるまでもなくこれに関する原告等の訴願を棄却した被告委員会の裁決もまた違法であり、その取消を求める原告等の本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。
よつて本件各訴の訴訟費用の負担につきいずれも民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 亀井左取 嘉根博正 原政俊)